締め付けトルク ばらつき、測定方法を踏まえて決め方を解説

機械設計
Aさん
Aさん

ボルトなんて感覚で締めておけば良いでしょ!長年こんな感じで締めてきたし問題ないはず!

Bさん
Bさん

締め付けトルクよくわかんないけど、インターネットから適当なトルクの表を探してその数値にセットしてトルクレンチで閉めればオッケー!

サトー
サトー

・・・な訳ないです。

このページに辿り着いた方はおそらくトルクを幾つにすればいいか悩んでいると思います。

そんなお悩みに対して、トルクに対する考え方のヒントをプレゼントできると幸いです!

こんな方におすすめ
  • 締め付けトルクの数値を適当にインターネットから拾って決めようとしていた方
  • 締め付けトルクについてちょっと深堀しておきたい方
  • 現場や客先から締め付けトルクはいくつだ!?と聞かれている方

締め付けトルクを適当に決めてはいけない理由 たくさんあるけど要点だけ

締め付けトルクは適当には決めてはいけませんが、適当に決めても問題は起こりづらいという性質があります。見た目ではちゃんと締まっていても、締まっていなくても分かりませんからね。

なおネジ締結全般についてはこの本がお勧めです。

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感想(2件)

細かいところはこちらの本にお任せするとして、締め付けトルクが不適切だとまずい理由を2つ上げます。

感覚で締めると強すぎたり弱すぎたりしてしまうから

一般的なメートルネジのボルトを締める際、人間が感覚的に締めて、一番適正なトルクになるのはM10、それより小さい場合は締めすぎ、それより大きい場合は緩すぎになる傾向があるそうです。

それも当然個人差がありますから、適正なトルクで締めるのは至難の業となりますね。

ここで言う「適正なトルク」とは、「ボルトのおねじ(めねじ)の材料強度が十分に生かされた軸力が発生している状態」のことを指します。

軸力とはボルトにかかる引っ張られる力のことで、ネジを締めていくとボルトの軸部分に発生する力を指します。

強く締めると軸力が高くなり、軸力が高くなるとボルトはより強い力で引っ張られます。よって、ネジの強度が必要になります。

ネジの強度が足りないとネジのネジ山が壊れてしまいます。かと言って締め込む力が弱くて十分な軸力がないと、ネジがすぐ緩んでしまうなどの問題が発生します。

だから適正な軸力をかけるために、締め付けトルクを決めよう!ということになります。

トルクの表はネジの材質に大きく依存するから

締め付けトルクを決定するのに、いわゆるトルク表を参照する場合があると思います。

ざっとウェブ検索したところ、株式会社 東日製作所さんのトルクハンドブックから引用している場合がほどんどです。さすが東日さん。。。

表を見ればわかるともいますが、ネジの材質ごとにトルク値が分かれています。強度の強い材質を使う場合はその分締め付けるトルクも大きくできますからね。ですので、締める前に最低限ネジの材質を確認しましょう!

この表、注意が必要なのが、区分が「おねじ」しかない、というところです。

ネジは「おねじ」と「めねじ」が組み合わさって初めて能力を発揮します。ところが、大前提としておねじとめねじの材料は同等である、という常識があります。

おねじとめねじの材料が同じであれば、めねじの方がねじ山の根元にかかる軸力によるせん断荷重を受ける面積が大きいのでおねじが先に破断します。よって、おねじの強度だけ確認すればいい、というのが当たり前です。詳しく知りたい方は海上技術安全研究所 平田宏一さんの講義ノートがとてもわかりやすいです!

ですので、おねじの強度区分しか書かれていないのです。機械設計者の皆様、教わらなかったことは常識だそうです。

仕組み的な話 なぜトルクが重要ではないか? 軸力が重要です

個人的には、締め付けトルクはあまり重要ではないと考えています。

大事なのは締め込んだ時の軸力です。

ボルトを締めていくと、締められる部材がだんだんつぶされます。それに応じてボルトに引っ張る力がかかります。これが軸力です。軸力が大きいほど、しっかり締結されていることになります。

当然、締め付けトルクは軸力と比例関係にありますが、単純じゃないんです。

トルクで管理する軸力がブレブレな理由 摩擦だよりだから

締め付けトルクを増やすとどのような原理で軸力が増えるのかを考えてみると、単純にならない原因がつかめます。

ボルトを締めるときのネジ山にかかる力を考えます。ボルトで締められる部材がつぶれ、ボルトに引っ張る力がかかると、その負担はネジ山に向かいます。

そうすると、オネジとメネジのネジ山同士が押し付けられる状態になります。この押し付けあっている力をキープしているのはネジ山同士の摩擦力です。

この摩擦力について不確定要素が非常に大きいです。関係する要素を下記に示します。

  • ネジ山の表面粗さ:粗すぎても平滑過ぎてもダメ。そもそも該当部分狭すぎて表面粗さ測定不能。
  • ネジ山の清浄度:油分が無いとネジ山が「かじる」。油分多いと滑りやすく軸力過多になる。
  • ネジの埋め込み長さ:長さによってネジ山同士の接する部分が変わり、摩擦力は変わる。
  • トルクレンチの熟練度:熟練度によりトルクが安定しない。結構バカにできないくらいズレる。
  • その他いろいろ・・・

それでもトルクが採用される理由 勝手が良いから

トルクによる管理をしても軸力はブレブレになりますが、多くの場面で締め付けトルクは採用されています。なぜか?

それは締め付けトルクを管理する方が簡単だからです。

ボルトの管理について、一番重要なのが締め付けた時の軸力です。軸力を直接測定できるのがベストなのですが、なかなか難しい。

ひずみゲージを埋め込むことによって張力を測定する方法や、超音波を使った測定などしか方法がなく、これらはボルトに加工が必要であったり、測定方法が大掛かりになったりします。

その点、トルクに関しては、専用のレンチを使用するだけで、軸力をある程度正確に整えることができます。

しかし、前述の通り、軸力をばらつかせないようにするためには摩擦を何とかしなければいけません。

ただでされバラつきが大きいので、せめてトルクくらいは揃えよう!みたいなノリだと理解ください。

締め付けトルクの測定および決定方法 厳選します

ここからは「締め付けトルクの決め方」について解説します。

  • お客さんから自社製品の締め付けトルクを聞かれた。
  • 現場でよくネジ頭が飛ぶ。
  • めねじがやられてよくヘリサート修正する。

そんなことがありましたら、ぜひ締め付けトルクを規定してみましょう!

軸力測定がベストだけども費用も時間もかかる

先ほども述べましたが、締め付けトルクより軸力が重要です。ボルトやタップのねじ山の強度に対して程よい軸力がかかっている状態がベストな締め付けです。なので、軸力を測定するのが一番。

理想の軸力が出たトルク値を締め付けトルクとして規定すれば良いでしょう。

しかし私が知っている軸力測定方法は下記の2点です

  1. ボルト内部にひずみゲージを埋め込んでひずみを測定し、軸力を算出。
  2. ボルトの上下面を円滑に仕上げて超音波を当てて軸力を算出。

1.のひずみゲージについては、ボルトにひずみゲージを入れるための特殊な加工をして、ひずみゲージを中に埋め込む必要があります。「軸力をひずみゲージを使って測定しよう!」と思わないとやらないですし、ボルトへ加工する必要があります。データロガーも用意しないといけません。ボルトに加工してしまうのでそのまま製品としては使用できませんから、完成検査は無理ですね。。。

2.の超音波での測定については、超音波軸力計が必要で、これがかなり高価です。また超音波を拾うためにボルトの上下面に加工が必要で、これも手間です。

逆にそれらの条件をクリアできるのなら、ベストな方法です。

おすすめ1位 戻しトルク法 一度締めたら緩めます

締め付けによって発生する軸力は締め付けトルク以外にもたくさんの影響を受けます。そういった条件を加味すると、最もベストな締め付けは現在製品の組立を行っている作業者の感覚だったりします。一日に何度もボルトを締め付けますので、その締め付けのウデに関しては右に出るものはほとんどいません。

その作業者の感覚による締め付けが適正でなくても、少なくとも現在のボルトの締め付けに関する品質は維持されます。作業者が実践しているトルク値を測定できればとりあえずは良さそうです。

これらの方法は複数ありますが、私は「戻しトルク法」を推薦します。

詳しくは「株式会社 東日製作所さんのトルクハンドブック」を参照いただきたいですが、ざっくり説明しますと、一度閉めたボルトを緩めるトルクを測定して、それを大体1.25倍したものを締め付けトルクとして規定する、という方法です。

戻しトルク法は測定が簡単なところが良いです。置き針式トルクレンチを使えば比較的簡単に緩めるトルクを測定することができます。こんなやつです↓

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そして、緩めるトルクは締めるトルクよりも弱くなる(大体0.8倍くらい)と覚えておいてください。

おすすめ2位 破断トルク法 こわれるまで締めます

もう一つ、締め付けトルクがはっきりわかる方法が、「破断トルク法」です。壊れるまで締め込んだ時のトルクを測定して、それ以下で締めるという方法です。株式会社 東日製作所さんのトルクハンドブック」では破断トルクの70%を推奨しています。

私はこの方法もお勧めします。これも「壊れる」というはっきりした現象をもとに判断できるからです。

あまりお勧めしない 増し締めトルク法 技量が必要

一方であまりお勧めしないのが、「増し締めトルク法」です。

この方法はざっくりいうと、ちゃんと締めたボルトをもう一回締めて、ボルトが動き出した時のトルクを測定する、というものです。

この方法を使えば、増し締めによってちょっとだけ締めすぎになりますが、完成品を検査できます。

しかし、最大の欠点は「技量が必要」なこと。

単純に単純に一度締まっているボルトを動き出すまでもう一度締めていき、ボルトが回った瞬間に止める、という行為が至難の業です。

トルクレンチのセットする値をボルトが回るまで小刻みに上げていけば簡単なのでは?と思われるかも知れませんが、膨大な時間がかかり、非常に面倒なのでお勧めしません。

おまりお勧めしない 計算式による算出 現物と大きく違う場合あり

もう一つ、お勧めしないのは「計算式による算出」です。あぁ、計算を否定するなんて、機械設計者として失格です・・・。ですが締め付けトルクはやらない方がいい。

ここで、締め付けトルク$T$の計算式を示します。

$$T=k×d×F$$

ここに

  $T$:締め付けトルク

  $k$:トルク係数 代表例)0.14~0.2~0.26(0.2±30%)

  $d$:ボルト呼び径 M8なら8 mm

  $F$:軸力 材料の強度から決まる数値

初めに述べた摩擦でブレブレになる要素がトルク係数$k$です。何も意識しないと±30%の誤差が出てしまいます。

通常は締め付けトルクによる軸力を算出しますから、締め付けトルクをせめてトルクレンチ等で管理してあげないと軸力のブレがとんでもないことに・・・。

そして、トルク係数を安定させる方法は「なるべく同じ条件にすること」です。ネジの材質、油のつき方、長さ、作業者等を同じにすることでトルク係数$k$の値が一定になってきます。各要素の違いを計算で出すのは大変難しい。

東日さんではfconという軸力安定剤も取り扱っています。

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こういったものを活用するのも一つの手ですね。。。

エイヤーで決める場合 材質に注目します

まずエイヤーについて・・・

さて、トルク値をエイヤーで決めなければいけない時もあると思います。

そういう時私はネジの材料に注目し、弱い方の材質に合わせたトルクを選定します。

例えば、SS400の板材にタップを加工して強度区分12.9のボルトを使用する場合、東日さんでいうところの1.8T系列ではなく、標準T系列を指定します。

たぶん1.8T系列を指定するとメネジのネジ山抜けてしまうと思うんですよね・・・。

でもちゃんとするのであれば測定するのが大前提。どうしても困ったときに活用するのがよいでしょう。

まとめ

締め付けトルクの本質は軸力を決めること

締め付けトルクを管理しても軸力はブレが大きい。計算よりも測定すること推奨

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