技術継承に絶対的正解はない マインド共有、統一の大切さと実行方法についての提言

機械設計

技能継承は大事である、技能継承は課題である等々、仕事をしているとよく耳にします。研修会のネタにも採用される場合が多いですが、イマイチな結論しか見かけません。

多分普遍的な正解のない問題なんだと思います。

なぜ正解がないか、私は人が絡むからだと考えています。

数学の方程式などとは違い、人によって正解が違う=組織によって正解が違うのが技術継承。ですので、私が偉そうに技術継承を語れるわけではないのですが、一つの考え方を示すことができると思いました。

私だったらこうするというイチ意見ですので、よかったら参考にしてください。異論は当然認めます!

なぜ技術継承が課題なのか?

「今」技術を継承する必要がない為、進まない

普段皆さんが仕事で使っている資料はご自分用にそろえたものではないでしょうか?たとえ研修資料などを会社からもらっていたとしても、業務の変更に合わせてメモを追加する等、アレンジされているのではないでしょうか?

自分たちが工夫してスムーズに仕事が終わるように考えた手順。初見では全くやり方の想像がつかないような作業もスムーズにこなせるようなノウハウ。

大小あると思いますが、それらは技術継承するべきかもしれません。なぜなら、自分で工夫した手順やノウハウが必要な仕事が突然できなくなる場合があるからです。

例えば交通事故などに会ってしまい、会社をいきなり長期間休まざるを得なくなった場合、引き継ぎも何もない状態で別の人があなたの仕事をやる必要が出てきます。果たしてその人はうまく仕事ができるでしょうか?難しのではないでしょうか?

でも現在は自分でやっている仕事なので、問題ないんです。

そのような仕事をうまく引き継げなかった場合、新しくその業務をやる人はそのノウハウがない状態から業務を進めなければならず、大変な負荷がかかります。工程の抜け落ちやチェック漏れ等があれば、製品の品質が低下し、社内の問題だけでなく対外的にも信用を失いかねません。

人が絡む → 正解を出しにくい

機械設計者の仕事は絶対的な正解が出しやすいと思います。明らかに強度が高い、コストが安い、などの明確な判断基準があれば正解を出すことは難しくありません。

しかし、人が絡むものに関してはそうはいきません。

明らかに能率が上がると分かっているシステム導入の案件も、メンバーの大多数が面倒臭い、と言えば導入されることはありません。

俺はあいつのこと嫌い。これはあいつが提案したアイデアだから俺は反対、みたいな人間が一定数いるだけで物事は進みません。

技術継承用に作ったマニュアルを誰も読まない

技術継承の最もメジャーな方法はマニュアルの作成ではないでしょうか?

マニュアルを作成する側は次世代に伝えようと、一生懸命作成していると思います。中小企業ではマニュアル自体存在しないことが当たり前なので、マニュアルが存在するだけありがたいことです。

しかし、大抵のマニュアルは、読んでもわからないか、逆に余計なことがたくさん書いてあり、ほとんど参考になりません当時の最新情報は現代の陳腐な情報であることも多く、マニュアル自体が残念な出来栄えになっていることもありますよね。

技術継承のために作成されたマニュアルや資料があまりにも使えないので、読まれないし、結果的に技術継承自体がされていない、ということになっていませんかね…

技術継承に割く時間がない上、時間をかけることはハイリスク、ノーリターン!?

技術継承の進まない理由のひとつは時間でしょう。

技術継承の資料作りや教育に充てる時間は、生産しない時間です。労働者はただでさえ目の前の仕事でイッパイなのに、技術継承という生産しない時間に貴重な時間を割り当てることは有りません。

その上、労働者は生産している時間=労働時間という意識があります。よってこれらの作業をしていると、他の労働者から「何サボってんだよ・・・」と思われてしまいます。いつどこで使われるかわからないような資料を限られた労働時間を使って作っていますからね。

つまり、技術継承に割く時間は、経営者には重要な位置づけとなりますが、労働者にとってはハイリスクノーリターンです。

技術継承における課題を乗り越えるヒント

技術継承は誰もが大事だとは思っていますが、これまで上げたような一筋縄ではいかない課題が数多くあります。これらの課題を乗り越えるためのヒントになりそうなことを並べてみます。

技術継承との向き合い方を変える 技術継承=業務効率化=縦の引継ぎです!

技術継承は何か崇高な神事ではありません。私は技術継承は業務効率化の一種だと考えています。

効率化する業務は「引継ぎ」です。スムーズに引き継ぎを行うことができれば一人ができる仕事が増えるので全体の効率化につながります。よく言う多能工ですね。

しかし、技術継承は多能工の育成とは違うと思います。技術継承は、多能工を育成するための「横」方向の引き継ぎではなく、世代を超えて「縦」に引継ぐことではないでしょうか。

縦の引継ぎ=OJTは経営的には危険です!

では、縦の引継ぎをするにはどうするか?

一番楽な引き継ぎはOJTです。ベテランと新米が一緒に仕事をしながら仕事を覚えていく引き継ぎ方法ですね。オンザジョブトレーニングと言えば横文字だし聞こえはいいのですが、実態は「見て覚えろ」になりますし、教える側の裁量に依存することになります。ですので、あまり良く無いと思います。なぜなら・・・

  1. 教えたこと自体がなにも残らない。ほんとに教えたかどうかも怪しい。
  2. 教えモレがあっても気づきにくい。
  3. どのレベルで伝わっているのか、第三者から見てわからない。

特に「第三者からみてわからない」=「経営者がみてちゃんと継承されるのか把握できない」と言うことは最悪です。技術継承は従業員にとってはぶっちゃけどうでも良いし、前述した通り仕事の成果として認められない可能性が高いのであまりやりたがりません。でもしっかり引き継げなければ経営危機になります。

縦の引継ぎのためのマニュアルをいかに作るか

多能工育成におけるマニュアルも技術継承には使えるとは思うのですが、技術継承用のマニュアルはひと工夫が必要です。

技術継承は経験豊富な人から経験が浅い人へと引き継ぐ場合がほとんどです。つまり、技術レベルの差があるのが普通。

その技術に詳しくない人向けにマニュアルを作ると膨大になる。かといって、省略しすぎると技術継承の資料としては不十分になる可能性もある。

ベストなマニュアルを作るのは非常に難しいでしょう。

よって、ベストなマニュアルは引き継ぐ人、引き継がれる人によって変わってくる、と言う認識を持つことが重要と考えます。

多能工を育成するためのマニュアルは技術レベルに差がほとんどない場合のものですから、最も不親切と考えて良いでしょう。そのマニュアルを元に技術レベルの差に応じて解説やフォローを加えていく、と言う形が最も良いと考えます。

トップダウンが不可欠 技術継承する時間は生産的ではないから

先ほど述べましたが、技術継承は「今」やる必要はないし、取り組んでも仕事の成果にはなり得ませんので、従業員にとってはハイリスクノーリターンです。

技術継承のことを気にかけている従業員は、会社に魂を捧げている社畜か、やることがなさすぎて遊んでいる社員か、口先だけの老害か、自分の技術だけは後世に伝えたいと考えているエゴイストだと思っています。つまり、ちょっと事情のある人たちです。

ごく稀に会社が本気で従業員を大切にしている結果、従業員からも大切にされる会社になり、技術継承も難なく進んでいくパターンもあります。ただ、我々サラリーマンはそんないい会社を選べる可能性はほとんどなく、十中八九ブラック企業で働かされることになります。そんなうらやましい環境はテレビやドラマの話でほぼ関係ありません。

日本の古き良き社畜文化が衰退し、プライベートをより大切にする個人主義が台頭してきた今日、従業員がハイリスクノーリターンである技術継承に取り組むとはどうしても考えられません。

技術継承が勝手に進んでいく良い会社にするのが一番ですが、雇われの機械設計者を自発的に技術継承させたければ、技術継承に関しては会社としてトップダウンで取り組むという体制を作ることが最も大切だと思います。技術継承を正式な仕事として考えるのです。

一般社員も技術継承はなんとなく重要なことはわかっています。本来従業員は技術継承に責任を持つ必要はありませんが、みんな少なからず会社が好きだし、貢献したいっていう気持ちはあるものです。会社から方針が出て、技術継承が仕事として取り扱われると言うことになれば、従業員も真剣に取り組まざるを得ません。

これによって、一部の従業員からは「自分の技術を後世に伝えるために会社が時間をくれた!」と考えてモチベーションが上がる従業員も出てくるのではないでしょうか。

方法論

色々課題解決のためのヒントみたいなもの書いてきましたが、具体的にどのようなことをしていけばいいかの提案を下記に示します。

まず、トップが決断し、技術継承は仕事であると言うマインドを共有する

いままで、従業員の技術継承に対するマインドの低さとその理由をいくつか提示してきました。この通り、従業員にとっては技術継承に取り組む義務は全くないと私は考えています。

技術継承は企業の課題である、と経営陣が主張し、従業員に技術継承を意図的に仕事として取り組ませるのがあるべき姿です。

時間をとる つみかさねが大事

企業としての宣言が終わったら、必ず技術継承に取り組む時間を取ります通常業務を取りくみながら、業務中に片手間で技術継承は絶対不可能です。

技術継承=縦の引継ぎですから、そのマニュアル作成は困難を極めます。

困難な作業ですが、この仕事、従業員のモチベーションは高くなるはずです。少なからず努力して積み上げてきた自分の努力を後世に残すことができるのですから、満足感の高い仕事になります。

直接的な利益にはつながりませんが、社員のやる気とともに技術継承の課題も進み、会社にとってはメリットの方が大きいので、経営の方はぜひ時間をとって取り組むよう、従業員へ示してほしいです。

従業員はみんな忙しいです。ちょっと手が空いた時や思い立った時に、すぐに技術継承資料の作成に着手できる状態が望ましいです。そして、作成しているとき、またあいつサボってるなと思われないような環境を作って欲しいです。

具体的に何やる? ⇨ デジタルをフル活用し、多くのヒントを残す

会社としての取り組みになった。時間も確保された。では具体的に何をやっていけば良いか?

いきなり完璧な技術継承のためのマニュアルを作る必要はありません。多くのヒントを残す作業をしていくのが良いと思います。

まずはちょっとしたコツや注意事項を電子化する作業です。ワードやエクセルで資料を作っているのであれば、印刷されないけどコメントを残せる機能を使ったり、同名のテキストファイルを作成したりして補足事項のメモを残します。内容としては作成した経緯や日付、引用した資料や根拠などでしょうか。

図面も最近は2DCADでしょうから、その図面を第三者が開いた時に注意事項や関連参考図面、設計思想などをメモ程度に残します。なんでここがh7?みたいな根拠ですね。

メモすることが難しい場合は動画を活用します。

  • 現場であればGoPro等のビデオを活用して作業手順動画を撮る。
  • パソコンソフトの操作方法であれば画面キャプチャを動画記録にする。

動画は近年はスマホでも撮影、編集できます。個人にスマホを支給できる部署は一部に限られてくると思いますが、最初は個人のものを使うか、あるいは部署ごとに買ってもらって動画をフル活用したほうが効率的だと思います。思いつくシーンは色々ありまして、

  • 仕事で使うプリンターの設定、トラブルシューティング
  • CADの操作方法マニュアル
  • 社内での学習会の動画記録

もう、この辺は動画でオッケーでしょう。

ここでは「完全なマニュアル」は目指しません。あくまでヒントを残すことに徹したほうがいいと思います。動画も最低限の撮影で留めておくことをお勧めします。これらのヒントがあるだけでも多能工の育成=横の技術継承には大いに役立ちますので、業務効率化に貢献できるでしょう。

最終的なマニュアルは多くのヒントを使って作る

そして、実際に引き継ぐ段階になった時、上の動画やメモを使ってまとめます。これは引き継ぐ段階になってからで構いません。なぜなら、前述した通り誰に引き継ぐかによってマニュアルは変わるからです。常日頃から動画やメモをたくさん用意しておき、誰に引き継ぐかに寄って補足事項を増やしてあげるのが良いです。

マニュアルは使い回せないものであるという意識を持っておきましょう。引き継ぐ人と引き継がれる人との知識レベルの差によって、必要なマニュアルの内容は変わります。知識レベルが離れれば離れるほど補足資料=その職場で一般常識とされている項目を増やす必要があります。

技術継承はナマモノと言う意識を持ち、引き継ぐ直前に材料(ヒント)を料理(まとめ)して提供してあげましょう。

表現力(文章力、動画編集能力やプレゼン力など)を鍛える(鍛えさせる)

技術継承で大事なのは表現力です。表現力とはわかりやすい文章を書ける能力や上手なプレゼンができる能力を指します。つまり伝える力です。

まず、わかりやすい文章を書ける能力が重要です。なぜなら、技術継承は資料が命。そして、その資料はたくさんのメモ書きから作成するからです。

先ほど、たくさんのヒントをメモにして残すことに触れましたが、上手な文章を書ける人がメモを残すのと下手な人がするのとでは大違い。あとでそのメモをみて何のことかわからないというのは最悪です。とにかく文章力を鍛えないと技術継承の土台にも乗れないと考えた方が良いと思います。

しかし、文章で伝えることが基本となっていたのは一昔前。今は動画の技術が発達しているので、文章が苦手な方や文章で伝えることが難しい事項については動画で記録してもいいと思います。でもただ記録するだけではダメで、そこにもちゃんとわかりやすく記録する動画編集能力やしゃべって説明するプレゼン力が必要になってきます。

文章を書く力やプレゼン力などの伝える力を鍛える方法の一つは実践とフィードバックだと思います。社内で発表する場、報告書などを作成する機会を積極的に設けて普段から訓練しておけば、いざ技術継承のときに大変役に立ちます。報告書であれば、最初のうちは型にはめられるよう、ある程度フォーマットを作ってあげておくのも良いでしょう。

しかし、実践とフィードバックはあくまで一つの方法です。伝える力に最も影響を与えるのは「人間性」であり「どういうことを伝えたいか=マインド」です。人間性を鍛えるには、色々な体験や芸術鑑賞、読書等をして積み上げていくしかありません。この辺を鍛えるような企画を会社として打っていくと、技術継承にも良いですが、遊んでるだけじゃねぇか!と怒られそうですね。

意外なところで、英語の習得は良い文章を書くことに対して有効です。英語は日本語と違い、主語、動詞、述語がはっきりしているため、論理的でわかりやすい文章を書きやすい言語です。英語に翻訳する前提で日本語の文章を書くと比較的わかりやすくなります。

技術継承する人同士の技術レベルの差をできるだけ小さくすれば負担減

技術継承する人同士の技術レベルの差をできるだけ小さくと、お互いの共通認識が多いので、引継ぎの資料が簡略化でき、継承はスムーズに行われるでしょう。

技能継承だ!といって、入社したばかりのド新人とその道40年の大ベテランを組み合わせてもうまくいきにくいのではないでしょうか?表面上はうまくいっていたとしてもちゃんとすべて技術継承できるのでしょうか?

悲しいことに現実は上のような状況がほとんどです。特に技術継承についてちゃんと考えてこなかった中小企業は。

技術継承を円滑にするためには適正な年齢構成、人員配置を行う必要があります。

一番重要なのはトップの決断

色々な方法論を述べさせていただきましたが、普通に働いている方は技術継承について、特に意識する必要はないと思います。自分用のメモやヒントの走り書きは自分の仕事効率化のために沢山あった方が良いですし、伝える力を強化することは色々な面で役立つので鍛えていた方が良いです。しかし、他人がちゃんと理解できるような書類の作成は必要ないでしょう。

上記で述べた通り、「誰に」引き継ぐかによって技術継承の資料の内容は変わってくるからです。それに、技術継承のための文章を丁寧に作成する暇があったら、新しいチャレンジや評価の上がる仕事に取り組んだ方がよいと考えます。

方法論であげた様々な事項は会社からトップダウンで指示しなければ実行不可能な項目が大多数です。改めて確認してみてください。

但し、もし会社を経営する立場であれば、技術継承は従業員へしっかり取り組ませる必要があります。今まで述べた通り、何のメリットもない技術継承を従業員自らやりませんから。御社の技術、従業員任せにしていたら廃れてしまいますよ。

まとめ

経営者でない人は技術継承を意識する必要はなく、業務効率化を目指すだけでオッケー

技術継承は経営者の責任で進める必要がある

あくまで私的な考えです 異論は当然認めます

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